文法より語順が大切
英語は前から読んでいったほうがいいというのはよく聞きます。言葉なので前から読んでいって理解すべきなのは当然なのですが、その「本当の理由」が語られることはありません。
日本語と英語を比べると、文法が違うので当然語順は違います。しかし、ただ単に語順が違うだけではありません。英語の語順には、日本人には想像もつかないような重要な仕組みが隠れています。
文法はもちろん大事ですが、過度に文法を意識しすぎてしまうと、この語順の重要な意味についてわからなくなってしまいます。実際、英語を学ぶ多くの日本人は、この語順の仕組みについて気が付かないまま英語を学んでいます。
正しい日本語なのにおかしな日本語?
I went to the school yesterday.
これを日本語に訳すと、
『私は昨日学校へ行きました』
となります。そこで私はいつも、生徒さんに質問しています。
「『私は昨日学校へ行きました』この日本語、おかしなところありますか?」
生徒さん達はしばらく悩みますが、特におかしな箇所は見つかりません。頃合いを見計らって質問を変えます。
「学校で友達から『私は昨日学校へ行きました』と突然言われたらどう感じますか?」
「よそよそしい」「不自然」と言った答えが返ってきます。
確かにその通りで、正しい日本語なのに、会話だと「おかしな日本語」と感じます。突き詰めると何が正しいのかわからなくなってしまいますが、論点はそこではありません。
口頭で突然『私は昨日学校へ行きまし。』と言われると、すぐに意味が理解できません。言われたことの内容を理解するのに、少しの「間」が必要になるのです。時間にして0.5秒くらいでしょうか。文面だけだとわかりにくい(※)ですが、実際に口頭で『私は昨日学校へ行きました。』と言われると、一瞬何を言われているのかわからなくなってしまいます。
「私は昨日学校へ行きました。」
「・・・あっそ。」
みたいな反応になってしまいます。
ではこの「間」の正体は何でしょうか?
※文面に起こして視覚を利用した場合、この違和感は感じられなくなります。文字に起こすとわからなくなるので気づきにくいのです。理由は後述します。
英語の語順だと「間」が生じない
この「間」は英語の語順では生じません。
I went to the school yesterday.
を英語の語順通り日本語に訳してみるとどうなるでしょうか?
【私は 行きました 学校へ 昨日】となります。
これを口頭で言われた場合、確かに違和感があるのですが、先ほどとはちょっと雰囲気が違います。「昨日」の音を聞いた直後にイメージが完成しているので、少なくとも先ほどの「間」は生じません。
「あっそ」から「ふ~ん、そうなの」くらいになっていますね。
英語の語順だと「間」が生じない理由
ではなぜ英語の語順だと「間」が生じないのでしょうか。図を描いて具体的に説明していきます。
I went to the school yesterday.
を語順通りに聞いた場合、最初に「I」を読んだときに【私】をイメージします。
次に「went」まで読むと、【私】が、【(どこかへ向かって)歩いている私】に変化します。
さらに「to the school」 まで読むと、【学校へ向かって歩いている私】に変化します。
言葉で説明するとわかりにくいですが、図に書くとこんな感じです。
最後に「yesterday」 を追加すると、「それが昨日のことでした」として文、イメージが完結します。文章を読んでいくのと、頭の中でイメージが組みあがっていくのが同時に起こります。
日本語は項目を覚えていく言葉
一方の正しい日本語「私は昨日学校へ行きました」はどうでしょうか?
「私」と「昨日」で何かイメージが作れるでしょうか?
「私」と「昨日」という言葉だけでは、何の関係性も見いだせないので、別々に覚えておかないと先に進めません。その後、「学校」が出てきますが、これも関係性がないので別に覚えておかなければいけません。
最後に「行った」という言葉が出てきてようやく3つの言葉の関係が示されます。脳の中で関係性を整理できるまでは、イメージをひとつにまとめることができず、頭の中はモヤモヤとした状態が続くことになります。そして、一文が長ければ長いほどこのモヤモヤが大きくなっていきます。これが「正しい日本語」の特長です。
英語と日本語の決定的な違い
英語と日本語は、ただ単に語順が違うだけではなく、英語は、イメージを変化させていくことができるような語順になっています。日本語は元々語順のルールがなく、項目を並べただけなので、語順を変えても意味が通じます。「英語の語順でも意味が通じてしまう」という柔軟さを持ち合わせた言語とも言えます。
英語は最初のイメージ(主語)を変化させるだけなので、覚える内容は一つで済みますが、日本語では、項目をいくつも覚えておかなければいけません。つまり、日本語は、脳にとても負担がかかる言語なのです。
この「覚えておく場所」のことを、心理学の用語でワーキングメモリと呼びます。ワーキングメモリについては次の記事で詳しく説明します。
ワーキングメモリに注目すると、英語と日本語では言葉の性格が全く違うことに気が付きます。これは、文法の違いより重要なものです。英語の文法はこの「語順ルール」を具体化するためのルールにすぎないのです。
日本語をわかりやすくするには工夫が必要
日本語の場合、「わかりやすい文章を書くならば、一文をなるべく短くしなさい」と教えられます。理由は、一文が長いと覚える項目が増えるため、ワーキングメモリが溢れてしまうためです。
先ほどの『私は昨日学校へ行きました』の例だと、まず主語は省略し、『昨日学校へ行きました』とします。助詞の「へ」も省略可能で「学校行った」にすれば1語で表現できます。
『昨日学校行ったよ』ならどうでしょう?
「昨日学校行ったよ」
「うんうん、それでどうしたの?」
のように会話がスムーズに流れていきます。
主語が省略されるのも、助詞を削って覚えるべき項目を減らすのも、脳への負担を軽くするための工夫です。話し言葉では「私は昨日学校へ行きました」ではなく「昨日学校へ行ったよ」の方がイメージしやすくわかりやすい言葉となります。
英語で主語を省略してしまったら、最初に何をイメージしたらいいかわかりません。「英語は主語を省略しない」とはよく言われますが、「英語で主語を省略しない理由」はあまりきいたことがないのではないでしょうか。英語の語順ルールを理解すれば、この理由は簡単に説明できます。日本語が主語の省略を多用する理由も理解できます。
英語は一文が長くてもOK
日本語の場合、脳(ワーキングメモリ)への負荷が大きくなるため、わかりやすいにするために一文を短くして表現することがあります。英語の場合、脳への負荷が小さいため、「1文を短くしなければいけない」という制約はありません。ネイティブが書いた本物の英語を読んでいくと、長大な文が頻繁に出てきて日本人を悩ませます。
もしこの長大な文を日本語に訳してしまったら、、、、、
「正しい日本語なのに意味がよくわからない」という、一見すると理解しづらい現象が起きてしまいます。途中、短く文を切ったとしても、文法構造が英語のまま、語順だけが日本語になっているので脳への負荷が許容値を超えてしまうのです。
このような長い文を和訳しながら読む自体、無理があります。例え和訳しなくても、英文法を意識しすぎると、単語の意味は英語のままなのに、「語順だけ日本語」に組み替えて読もうとしてしまいます。
語順通りに読んでいけば簡単にイメージできるものを、「わざわざ脳の許容量を超えるような文構造として読んでしまう」ということになってしまいます。
文法は確かに大事なのですが、語順通りに読んでいけばある程度文法に沿った意味を捉えることができます。ただし、事前に覚えておくべき「読解専用の文法事項」はいくつかあるので、そこは確実に押さえておきましょう。
日本語の優れた点
読みやすさ、イメージの正確さという点では英語が優れていますが、日本語には柔軟性と優れた表現力があります。そして、語順を変えてもいいということは、「英語の語順であったとしても、日本語として理解することができる」ということを意味します。
これは、我々日本人が英語を学習する上でとても有利な点です。英語を日本語の延長として読むことが可能になります。
たった1日で英語が読めるようになる理由はここにあります。
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