文法の共通化問題とワーキングメモリの制限回避

文法の共通化問題

英語、日本語問わず、文法は誰かが発明したものではなく、自然に生まれたものです。もし文法のルールが習得が難しいものであったら言語として成立しません。

もし誰かが複雑な文法を発明したとしても、言語が未発達な世界ではその文法ルールを伝える手段が存在しません。自然言語として成立するには「文法の共通化問題」をクリアする必要があります。

ワーキングメモリの制限

そして、自然言語の文法を理解する上で重要なもうひとつのキーワードは「ワーキングメモリの制限」です。人間の脳内にはワーキングメモリと呼ばれる機能があり、これは一時的に物事を記憶しておく場所です。この「ワーキングメモリ」はかなり容量が小さく、4~5チャンクしかありません。

言語として成立させるには、ワーキングメモリの制限をクリアすることが条件となります。誰かが全く新しい文法を作ったとしても、ワーキングメモリの問題を解決しない限り実用に耐えない言語になります。

問題の解決方法

英語における解決方法

英語の場合、まず主語を提示し、その主語を変化させていくことでワーキングメモリの消費を抑えています。文法の基本ルールはとてもシンプルで、「イメージが順番に変化していくような語順ルール」となっています。このルールならば、あらかじめ皆にルールを周知しておく必要はありません。知らない人同士でも、単語の意味だけを共通化してけばイメージを組み立てることである程度の意思疎通が可能になります。

英語は「前から順に読んでいくとイメージが作れる語順」にすることで、ワーキングメモリの制限と、ルール共通化の課題を同時に解決しています。

日本語における解決方法

日本語は語順のルールがないことで「文法の共通化問題」をクリアしています。「私は昨日学校へ行きました。」「昨日私は学校へ行きました。」「学校へ、私は昨日行きました。」どの語順でも意味が通じます。そもそもルールが存在しないので、ルールを告知する必要がありません。 英語の語順でも意思疎通は可能です。

日本語の会話では、主語の省略を多用します。主語だけでなく助詞を省略したり、略語を多用することもあります。こうすることで、覚えるべき項目を減らし、ワーキングメモリの容量制限を回避しています。

日本語は抽象化の言語、英語は具体化の言語

日本語の場合、省略できるものはできるだけ省略して「抽象化」します。抽象化することでワーキングメモリの消費をできるだけ少なくします。一方の英語の場合、とにかくリアルに表現して、イメージを「具体化」することでワーキングメモリの消費を抑えます。一言で表すと、「英語の特長は具体化、日本語の特長は抽象化」です。

どんなに翻訳ソフトが進化しても、リアルな英語の表現をリアルなまま日本語に表現することはできません。英語を日本語に翻訳するということは、リアルな世界観を抽象的な世界観に表現しなおすということです。英語のリアルな世界観を知りたいならば、英語を勉強して英語のまま理解するしか選択肢はありません。

英語の小説を英語の原文のまま読むとはっきりとしたイメージが脳内に浮かび、臨場感を楽しむことができます。抽象的な文章から自由に想像力を膨らまして楽しむ日本の小説とは対照的です。

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